教員インタビュー

松田先生

時代や社会の変化で、変更を
余儀なくされる法律に取り組む。

法学部教授

松田 浩
(まつだ・ひろし)

憲法

「映画や歴史書で、マッカーシズムの時代に「自由の国」アメリカが自由を喪ったのはなぜか、ということに興味をひかれた」という松田教授。これまで、学問の自由、教育の自由、表現の自由、信教の自由、平等と、「心の自由」を軸に研究してきた。自由にモノを言えない時代に、政府に対して異議を唱えてきた先人に学び、モノが言える時代の自分たちが発言していかなければならない、それが大学の役割、と力強く語る。

 法学に進んだ経緯を伺うと、
「私は実は、法学よりも歴史や政治学、哲学などの方に興味があったんです」とのこと。

 法学部よりもそちらに進んで勉強したかったのだそうだ。親の意向もあったというが、最終的には自分で決断。やるからには「憲法」を専攻したいと思っていたという。法学部の科目の中でも憲法が最も政治学に近いものだったからだ。法学への興味も浅からぬものだったようだ。

 さらに、憲法の基礎理論は18世紀からの歴史を知る必要があり、近年はサンデル教授などに代表されるアメリカの道徳哲学に影響されて動いているという。つまり、憲法学は歴史や哲学とも密接な関係にあり、無縁ではないのだ。

20年をかけて辿り着いた結論、「法律に完成品はない」。

「法律の勉強を始めて20年になりますが、今になって、やっと法律というのはこういうものなのか、ということが分かって来た」と松田教授は話す。それはどんなものなのか。

 実際の社会の動きと密接に関係するため、「法律とは決して固定された万能なものではない」ということだという。

 憲法の文書(テキスト)自体は変わらなくても、中身、つまりその解釈が時代によって、また、弁護士・法学者など法律専門家から一般市民まで含めた法律のユーザーたちの考えによって解釈が変わるからだ。

「『法律とはコトバによる社会統制』と喝破した人がいたのですが、確かに、平和的に暮らしている限り、法律なんて必要ない。社会に何かトラブルが起きた時に必要となり、様々な人が様々な主張をする。それをどう解決するかが、正に法律家の役割。法律とはコトバを使ってお互いが納得できる紛争の解決点を見つけることなんですね。そして、『納得できる』ということがとても大事なこと。認識の違う人同士をうまく説得し、社会に調和を取り戻す」

 法律は科学のように答えが一つではない。一度は妥当な決着と判断されてもなお残る不満を、うまく納めなければならない。その解決策を探るのが法学。時代によって状況は変わり、社会を構成する人も変わるので主張も変わる。となれば、一度は解決された問題でも、時代が変われば答えは変わらざるを得ない。

 世間の常識が変化し、それに合わせて変化を遂げてきた裁判所の判決を分析し、これまでの判決との矛盾点や不備・不足な点をしっかりと見極めた上で、今後を考えた場合の必要な発展の方向を指し示す、また、判例の現状を分かりやすく説明する、そうしたことが法学者の役割となる。だから、やりがいがある。

驚くほど多趣味。しかもそれぞれに深く入り込む

折りたたみ自転車で1時間ほどかけて自宅から通っているという松田教授。

「今、最も熱中している趣味は、間違いなく自転車ですね」と嬉しそうに話し始めた。

 松田教授曰く、「スピード優先機能美溢れるドイツ製BD-1と、折り畳むとコンパクトな街乗り専用のイギリス製ブロンプトンという折り畳み自転車」。それに加えて、サイクリング用という3台を用途に応じて乗り分けているという。

 それにしても、その守備範囲の多さ、広さには、驚かされる。自転車&サイクリング、寄席通い、ピアノ、オーディオ、カメラ、万年筆……。

 興味を持つと、ある程度まで突き詰めないと気が済まないことに加え、次々と新たに興味の湧くものに出合ってしまう。中には、寄席通いが講義を進める話術の参考になるということもあるが、一般的には、「仕事と縁遠い趣味が増えていく」、ということになる。

「それぞれが特別なものではなくて、日常の一部として自然に溶け込んでいくんですね。そして積み重なっていく……。だから、1個1個にかける時間が少なくなって申し訳ないな、と思うんですけど……、えっ? 何に? 個々の趣味に……」と苦笑する。

 しかし、一定のラインは引いている、ということで、仕事や生活に支障をきたすほどにはならないように、経済的に負担の大きなものにははまり込まないようにセーブしているとおっしゃる。セルフコントロールされているのだ。

 はまり込んだという一連の趣味を見渡してみると、どれも高度な手仕事が機能美を生むもの。

「こういうアートの域にまで達したクラフトマンシップがどの程度根付いているかが、その国の文化を表すと思っているので、知りたいんです。もちろん外国産のものだけでなく、日本オリジナルの逸品を見つけるのも本当に楽しい」

 趣味から入って考察する。1、2種類の狭い範囲ではなく多様なジャンル、視点から見渡すことから得られるバランス感覚は、様々なところで生きてくるのだろうと、妙に納得させられてしまう。

メッセージ

「法」学は論理と正義感覚が命です。どちらが欠けていても人間らしい社会の基礎を築く「法」のあり方を探求する力は磨けません。小説を読む、歴史書を繙く、映画・ドラマ・演劇を味わう……、そのなかで「人間らしさ(humane)」の感覚を磨いてください。自分の中に深く井戸を掘る経験は学生時代しかできません。和して同ぜず、孤独を恐れずオンリーワンの経験を積んでください。授業を受けるということは、それによって自分の何かが変わる、そして、社会に出て行く上で必要なものを得るチャンスでもあります。有効に活用してください。